慰安婦=性奴隷説への反撃の「最大の武器」だ。
米軍資料が証拠だ!「慰安婦問題の本質」性奴隷論への反駁」島田洋一氏や多くの右派がよく言う「ミッチナ捕虜尋問調書49号」にも慰安婦の自由度が記録されているではないか。」
との理由で「監禁なんか無かった」と本当に言えますか?
 


While in Burma they amused themselves by participating in sports events with both officers and men, and attended picnics, entertainments, and social dinners. They had a phonograph and in the towns they were allowed to go shopping.

右巻きの人が主張するのは調書のこの部分です。

井沢元彦氏は「史料を絶対視」し過ぎることは、かえって歴史の真相を見誤る結果を招くと主張しています。
確かにその通りだと思います。

ただ、氏を含め「史料」じゃなく「2次資料」を引用して書かれてある主張が多く、慰安婦については右派の主張はみな同じような物です。
歴史学は史料・文献批判が重要なのは言うまでもありません。私も出来うる限り「史料」本位で批判・検証したいと思います。即ち「逆説の慰安婦の歴史」みたいな。 笑
それで「ミッチナ捕虜尋問調書」を右派の書いた訳文ではなく、原文の英語で理解することを基本とします。





韓国で発見された朝鮮人の慰安所従業員の日記 毎日新聞 2013年08月07日 には「鉄道部隊で映画(上映)があるといって、慰安婦たちが見物に行ってきた。」とあります。


慰安所から外出しても軍の上映ですから監視者が当然いたと見るのが普通でしょう。

街の映画館へ自由に行くことができたという証明にはなりませんね。
何ヶ所かの慰安所の軍制定の規則が見つかっていますが、そこでは慰安婦の外出は厳禁とされていたようです。
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慰安所規定送付ノ件 1942年11月 軍政監部ビサヤ支部イロイロ出張所

しかし多少の自由もなければ彼女達が病んでしまうので、気分転換のため少しばかりの外出は「許可」された所もあると思います。

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勿論自由な外出が許されていた訳ではありません。
「戦地だから外出は危険であり当然だ」というウヨもいますが、そんな外出も出来ない危険なところに慰安婦は留め置かれていたということです。

またそれ以上に同調書では慰安所を放棄してもなお慰安婦が軍に帯同させられ、戦闘に巻き込まれ死者もいたことが記されています。
強制連行・監禁どころの話ではありません。

(一方従軍看護婦はというと、ミッチナの戦闘が始まる前に後方の安全なバモーとかに脱出させています。)

右派はこの記述については全く言及していません。

 

話を元に戻しましょう。
外出が許可された場合、慰安所の従業員と同伴というより彼女達を保護するために憲兵が同行した可能性の方がリアリティがあると思います。軍の監視の下でのデートと言うわけです。敵スパイとの接触や「逃亡」を防ぐ意味があったのは当然でしょう。

in the towns they were allowed to go shopping.は単に「街で買い物に行くことを許された。」と言うだけで、自由に街を歩けたと書かれていません。

「町ではショッピングを楽しむこと も認められていた」 と「なでしこアクション」のHPで掲示されています。
どうですか?高校の試験でこんな回答をすれば正解の○は貰えませんよ。

amused themselves のセンテンスはand social dinners.で終わっていて、新たにThey hadから始まっています。当然別の文章ですから、「楽しむ」動詞や付加を表す「も」といった副詞alsoやas wellの記述がなければそんな意味にはならないでしょう。

こういった意図的な印象操作も姑息な手じゃありませんか?

確かに私は日教組の先生に英語を教わりましたが、非日教組の愛国先生なら○をつけるのでしょうか?

そのような手法はまだまだ見られます。
She turned over seven hundred and fifty to the "master". 
を「彼女たちは、「雇い主」に750円返済していた。」と訳しています。
turned overを返済と意訳していますが、受け取った料金から「雇い主」へ(雇い主の取り分50%を)返したというのが本来の意味でしょう?

repaymentとは書かれていないのに、何故「返済」とするのでしょう。
この文章の前に前借金のことが書かれています。簡単に借金を返せるかのような印象を与える意訳です。

しかし借金返済をしても帰国 は許されませんでした。
同調書では慰安婦は「 2、3百円の前渡金を受け取った」とあります。
1500円の売り上げがあったなら、一月で返済できるはずですが、一年以上も帰国は許されなかったのです。
「 1943年の後期に、軍は、借金を返済し終わった特定の慰安婦には帰国を認める胸の指示を出した。」とあります。
右派はこの部分をもって「借金返済すれば帰国できた」と肯定的に主張しますが、廃業・帰国が自由でなかった=強制性の証拠が同調書で読み取れます。
 

そして実際は戦況悪化のため帰国できた慰安婦はひとりもいませんでした。




また調書の中に
The girls were allowed the prerogative of refusing a customer. This was often done if the person were too drunk.

「慰安婦は客を拒む権利が許された。兵が飲みすぎの場合度々行使された。」という箇所を元に「客を自由に選べた」かのような主張もありますが、上記規定には「飲酒酩酊セルモホノハ入所を禁ズ」とされているので、むしろ慰安婦にもその指導がなされていたからだと思われます。飲酒者を「拒否する権利」であって決して「選べる権利」ではありません。
上層部が恐れたのは兵が酒に酔って軍機密を漏らす事だったからです。

またこの証言は慰安婦の証言というよりも日本人の雇い主の証言と考える方が自然です。以下の文からも類推できます。

The girls complained that even with the schedule congestion was so great that they could not care for all guests, thus causing ill feeling among many of the soldiers.

「スケジュールどおりにやっても混雑が酷く、全ての客の面倒をみる事ができず、結局兵士の多くに不信感を引き起こしていると、女性達は不満を訴えた。」

との記述があるように、1日に相当多くの兵が利用していたようです。飲酒兵を拒んでも次の兵を相手にせねばならないので、事実上慰安婦の好みで兵を選べなかったと考えるのが一般人の考え方でしょう。




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水木しげる氏の有名な慰安婦漫画ですが、「5時ですからおしまいですよ」のセリフ部分だけを引用して、「慰安婦はさっさと仕事をやめてるじゃないか」「兵の方が可哀相だ」といった慰安婦が気楽に従事していたというデマを振りまく人もいます。

先の調書によると
According to interrogations the average system was as follows:
「尋問によると、平均的な制度は以下の通りだ」
1. Soldiers 10 AM to 5 PM  1.50 yen  20 to 30 minutes 一般兵
2. NCOs     5 PM to 9 PM  3.00 yen  30 to 40 minutes 下士官
3. Officers  9 PM to 12 PM  5.00 yen  30 to 40 minutes 将校

即ち「5時ですから(一般の兵隊さんの利用は)おしまいですよ」って事ですよ。
その後も12時まで下士官・将校のお相手をさせられた訳です。

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もちろん米軍資料だけでなく日本軍の定めた文書も残っています。




たった一つの文書の都合のいい部分だけで、広範囲にわたった慰安所の実態を充分説明できると言うのでしょうか?
ネトウヨはインドネシアやフィリピンでの軍事法廷の事実を、たった1,2の事件を挙げても全てがそうだった訳ではないといいます。(実際は8件の軍事裁判記録がある)
じゃあ調書の一部だけを取り上げての理屈はおかしいのじゃありませんか?
もう少し具体例として信憑性の高い資料(複数)を望みます。
 
さらに言えば何故先ほど「百歩譲って」と言ったかといえば、上記の調書には慰安婦自らが証言したと書かれていないからです。調書は雇い主"house master"(日本人)からの聞き取りもあるのです。彼らが訴追を免れようと言い逃れのウソをついていると解釈も出来ます。

通訳は日系2世だったので日本語で尋問されました。朝鮮語の通訳がいたとの記録はありません。
従って業者の都合のいい証言がほとんどだったと推測されます。慰安婦の聞き取りも通訳が彼女らを卑下していたことがありありとわかる調書です。

uneducated, childish, and selfish. She is not pretty either by Japanese or Caucasian standards. She is inclined to be egotistical and likes to talk about herself.
「無学で子供っぽく利己的である。彼女らは日本人あるいは白人のどちらの基準でも、美人とはいえない。身勝手な傾向があり、自分のことばかり話したがる。」
 
通訳の偏見、朝鮮語の通訳の不在。そういった状況の中で朝鮮人慰安婦の言い分が充分反映されたと見るには無理があります。伊沢氏の「逆説」とはこういった解釈です。
 
さらに同調書には
She claims to dislike her"profession" and would rather not talk either about it or her family.
「彼女らは自分の"職業"が嫌いだと不満をいい、仕事のことや家族のことを話そうとしない。」との記述もあります。ですから前述の慰安婦のthey amused themselvesのくだりも彼女らの証言ではないと考える方が妥当じゃないですか?
理解するに簡単な英語ですが、このあたりの部分は島田洋一氏ら右派には完全に無視されています。
 
ここではネトウヨ女子に聞きたいのですが、好きでもない取引先の会社の社長と”social dinners”を付き合うのはむしろ苦痛じゃないですか?本心で自分の口から楽しんだとは決して言えないですよね?セクハラ付なら尚更ですよね?
慰安婦はチップを貰う為にガマンして愛想をしただけです。



「うちの女子社員は取引先の社長にディナーをご馳走になって喜んでいた」と言う体裁をかまう上司の話ならよくある事だと思いますが。
 
もう一つ、蛇足になるかもしれませんが、果たして彼女らに音楽を聴いて余暇を楽しむなんて時間が本当にあったのでしょうか?

 
「多くの「楼主」は、食料その他の物品の代金として慰安婦たちに多額の請求をしていたため、彼女たちは生活困難に陥った。」とも書かれていますので、phonographを法外な値で売りつけられたとも考えられますし、phonographを前に高額な借金にため息をついていたのかも知れません。

またビルマは日本軍占領後、軍票の乱発により現地経済はハイパーインフレに陥ります。
市場で手に入れようとした食料・日用品は軍票の額面の数十倍必要だったので、多額の請求も仕方なかったと思われます。 

They had a phonographだけでは下のマンガのように寛いでると断定できませんよ。
「彼らは1台の蓄音機を持っていた」だけですから、慰安婦の部屋にはなかったはずです。
 チャンネル桜では「ラジオを持っていた」なんて適当な事言ってましたが、それよりはマシか。
 

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小林よしのり氏も調書の一部をもって慰安婦の楽しい様を漫画にしていますが、本当の慰安婦の実態を表現しようとする姿勢と知的センスがなかったようです。調書に忠実なら、
少なくとも慰安婦を美人(?)に描かないと思いますね

 
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北ビルマで捕虜になった慰安婦  1944年9月3日 米軍写真斑撮影


有名な慰安婦の写真ですが、キャプションによれば
「船がシンガポールに寄航した際に買った綿製の洋服であった。」
2年間も同じ服を着ていていた訳です。

小林よしのりの漫画にあるような慰安所から外出して洋服なんて買えなかったと言うことです。

 

もうひとつ付け加えますが、尋問調書に次の一節が記載されてあります。

A "comfort girl" is nothing more than a prostitute or "professional camp follower"attached to the Japanese Army for the benefit of the soldiers.  
"professional camp follower"

テキサス親父関連のHPの翻訳では「 軍を追いかけている売春婦」「追軍売春婦」と訳しています。「商売の為に金魚のフンの如く追っかけて来た」ということを言いたいのでしょう。しかも大きく赤字で強調しています。原文引用の赤字もママ

しかし、そこには黒字で書かれた続く部分には言及していません。
不自然にもひとつのセンテンスの途中までしか引用していないのです。何故でしょう?
右派にとっては非常に都合悪いからに外なりません。

followerを単純に訳せば「追いかける」の意もありますが、後に続くattached to the Japanese Army は同格でfor the benefit of the soldiersまでが名詞を構成しているのを考えると、「追いかける」chaseという軍と距離感のある意味合いではないことがはっきりします。

日本軍所属または日本軍専属ということなので、camp follower は基地の配下にある者、基地従者、基地使用人という意味でないと辻褄が合いません。単なる民間人ではないと言うことです。
秦郁彦氏は「日本軍所属の売春婦」と解釈しています。2015海外特派員協会での声明

要するに、業者が勝手に付いてきて慰安所を開いたのではなくて、軍の施設として慰安所は密接な関係があったと言う事です。即ち慰安婦は民間人ではなく、軍所属の「慰安婦」が将兵専門に営業していた施設である慰安所は軍付属であることを意味し、軍が関与しないとは実態としてありえない事です。 


また多くのウヨは"professional camp follower"のprofessionalはそのままプロとして訳していますが、professionalは”専門”即ち軍隊専門の売春婦と訳すべきで、素人に対する売春のプロといったイメージを植えつけようとする意図が見え見えです。

同調書の初めの項目(徴集)には

「これらの女性のうちには、「地上で最も古い職業」に以前からかかわっていた者も若干いたが、大部分は売春について無知、無教育であった。」
と記されており、所謂プロの売春婦は若干しかいなかったということです。

703名の朝鮮人慰安婦の大半は「偽りの説明 を信じて、多くの女性が海外勤務に応募し、2、3百円の前渡金を受け取った。」という記述からもわかるように、ビルマへ送られた慰安婦は「素人」だったのです。 

 


ネトウヨは冒頭に述べたように都合のいい部分だけトリミングをし、それを根拠に慰安婦問題の総体を決め付けているというのはそういう主張をしているからです。